2017年11月某日。鉄道乗蔵が執筆した『運行本数は週わずか2便!夕張鉄道バスの免許維持路線に乗る!』というブログ記事がきっかけとなり、この路線が運行されている北海道江別市役所へ意見交換に行ってくることになった。
市役所のシティプロモートの担当者の方のお話では、夕張鉄道バス(以下、夕鉄バス)も他のバス会社と同様に利用者の減少と運転手不足の双方に悩んでいるとのお話を聞くことが出来た。
鉄道乗蔵は実は経営学修士(MBA)の学位を保有しており、俗にいうMBAホルダーというやつなのであるが、経営学やマーケティングについての専門的な知見を持ち合わせている。
そこで、江別市役所にて夕鉄バスの現状と課題等も含めて意見交換をさせていたこともせっかくの縁ということで、今回は鉄道乗蔵の独自の視点で夕鉄バスの今後に向けてどのような再生プランが考えられるのか具体案を検討してみたいと思う。
<関連記事>
⇒乗り物ヲタク系コンテンツを活用した町おこしは可能か!?北海道江別市役所へ意見交換に行く。
⇒運行本数は週わずか2便!夕張鉄道バスの免許維持路線に乗る!
目次
- 1.新さっぽろ駅から夕鉄バスに乗車する
- 2.夕鉄バスの現状と課題
- 3.課題への対応策
- 4.路線バスへの具体的な集客策
- 5.運転手不足への具体的な対応策
- 6.鉄道の復権と夕張鉄道の未来へ向けて
- 7.再生プランを実行できる人材像
1.新さっぽろ駅前から夕鉄バスに乗車する
夕鉄バスの再生プランの着想を得るために、まずは実際に営業中のバス路線に乗ってみることから始めることにした。今回は夕鉄バスの中でも利用者の多い新さっぽろ駅~野幌バスターミナル間の区間を乗車する。
快速エアポート号で新札幌駅へ
2017年12月某日(土)。鉄道乗蔵は札幌駅から新札幌駅へと向かった。札幌駅から新札幌駅までは快速エアポート号に乗ると途中駅ノンストップでわずか10分程度で到達することができる。
快速エアポート号は札幌駅を発車すると快調に隣の苗穂駅を通過。苗穂駅に隣接する苗穂運転所では2017年11月4日をもってラストラン運行を終えた『ニセコエクスプレス』の車体が留置されたいた。
▲苗穂運転所に留置される『ニセコエクスプレス』
⇒ラストラン『ニセコエクスプレス』乗車記!前編
⇒ラストラン『ニセコエクスプレス』乗車記!後編
さらに白石駅、平和駅を通過すると千歳線を走る快速エアポート号は高架線に上がり、地平を走る函館本線と分岐する。
そしてこの高架線を登り切ってしまうと列車はすぐに新札幌駅へと到着した。
なお、新札幌駅にはこの他に新さっぽろ駅も存在している。JRの駅は漢字表記の「新札幌」、札幌市営地下鉄の駅は漢字かな交じりで「新さっぽろ」と表記し区別をしている。バスの行先に関しては「新さっぽろ駅前」と表記されており、地下鉄の駅名ほうが採用されているのはかつて札幌市交通局が市営バスを運行した時代の名残と考えることが出来る。
新札幌バスターミナルへ
新札幌駅周辺は札幌市の副都心として都市開発されたエリアである。そして新札幌駅は、複合商業施設が併設されており、JR駅のほかバスターミナルも備え、さらには札幌市営地下鉄東西線も乗り入れるターミナル駅だ。
夕鉄バスはこの新札幌バスターミナルの12番のりばに発着している。
土曜日の午前中であることとの関係は分からないが乗客の姿はまばらであり、ゆったりとしたバスの旅が楽しめそうである。
新さっぽろ駅前からは、11時20分に発車する栗山駅前行に乗車し、江別市の野幌バスターミナルに向かう。
新さっぽろ駅前から夕鉄バスに乗車する
新さっぽろ駅前を11時20分に発車する栗山駅前行のバスは3分ほど前になり乗り場へと入ってきた。バスの写真を撮り乗蔵もさっそく車内へ。この時の乗客は私も含めてわずか4名であった。
客層についての印象としては、大半が主婦風の女性の方で日常生活の足代わりにバスを利用している方が多い路線であるという印象だ。
バスは新さっぽろ駅前を発車すると国道12号線(旧道区間を含む)をひたすら江別駅方面に向かって進んでいく。なお、ここで言う旧道区間とは江別市道鉄東線のことであり、1970年代に国道12号のルートが変更されるまではこの鉄東線が国道であった。
なお、夕鉄バスでは現在でも交通系ICカードは一切使用することはできず、乗車の際には昔懐かしい紙の整理券が発行されている。バス整理券については1990年代後半から感熱紙のバーコードタイプのものが普及した印象があるが、夕鉄バスでは昔懐かしいシステムを今でも守り続けている。
本日の目的地である野幌バスターミナルに到着したのは11時45分。新さっぽろ駅前からの運賃は320円であった。
野幌バスターミナルにて
夕鉄バス野幌バスターミナルは、夕張鉄道線北海鋼機前駅跡地に建設されたバスターミナルで、夕鉄バスの重要な営業拠点の一つとなっている。ターミナル待合室はどこかローカル線の有人駅を思わせるような雰囲気があり、小奇麗で居心地のよさそうな印象だ。
なお、ターミナル窓口には、夕張鉄道線の現役当時の写真や記念切符などが額に入れられて展示されていたことが大変印象的であった。
夕張鉄道線は1975年に全線が廃止されているが、実は1986年までは野幌駅から北海鋼機駅を通り北海鋼機工場内までの引き込み線が稼働しており、夕張鉄道北海鋼機前駅で貨車入れ換えのための信号扱いが行われていたという。
現在の周辺は区画整理と大規模な新道建設により夕張鉄道線が営業していた当時の面影はなくなってしまっているが、かろうじて当時、北海鋼機前駅で使用されていた腕木式信号機が保存されていたほか、隣接する北海鋼機の工場敷地内では貨車の入れ換えに使用されていたスイッチャーの車庫と思われる建物が佇んでいた。
2.夕鉄バスの現状と課題
さてここからは、夕鉄バスの現状と課題を明らかにし、経営学的な知見に基づいて解決のための考察を行ってみたいと思う。
夕鉄バスの現状
夕鉄バスの営業エリアは、大きく江別エリアと夕張エリアの2つのエリアに分かれる。この2つのエリアを中心にそれぞれ路線バス事業と貸切バス事業の展開をしていることが同社の特徴だ。
江別エリアの特徴は、新さっぽろ駅から江別市内を横断して南幌までの路線が基幹路線として存在し、一部の便は栗山駅前や新夕張駅前まで足を伸ばすものもある。この他に朝夕のみの路線として新さっぽろ駅前から江別市文京台地区を往復する路線がある。また週2便のみ運行の免許維持路線として、新さっぽろ駅前~札幌大通間、中の月~野幌駅南口間の路線が存在する。
夕張エリアの特徴は、石勝線夕張駅から新夕張駅にかけての鉄道路線とほぼ並行して夕張市の市街地をほぼ縦断するかたちで路線形成が行われている。
この他、両エリアを結ぶ、路線として新さっぽろ駅前と夕張市内の南清水沢駅前を長沼経由で結ぶ急行便の設定が1日4便がある。
そして、バス広告や貸切バス、旅行代理店の営業も行っており、これらが現在の夕鉄バスの全事業の概要となる。
路線エリアの人口状況
次に、夕鉄バスのバス路線が走る沿線自治体の人口状況を明らかにしたい。
江別エリアの基幹路線は、新さっぽろ駅~南幌間が最も本数の多い基幹路線となり、これに加え栗山駅前まで足を伸ばす路線があることから、沿線の自治体は札幌市厚別区、江別市、南幌町、長沼町(北長沼地区)、栗山町の5市町となる。
一方の夕張エリアは、概ね夕張市の市街地をほぼ縦断するかたちで路線形成が行われていることから、沿線の自治体は夕張市の1市のみである。
各沿線の自治体の人口状況をまとめると下記表のようになる。
バス路線の沿線自治体の人口を集計すると288,720人の人口規模を有しておりバス路線の市場性は十分にあると考えることが出来る。
なお、バス路線の沿線人口と収益性との関連性を考察すれば、次のような事例がある。
2006年に埼玉県川越市に本社を置く中堅バス会社のイーグルバスが、大手の西武バスが赤字のため手放した埼玉県日高市の生活路線を引き継ぎ見事に路線の黒字化を果たしている。埼玉県日高市は埼玉県南西部、外秩父山地のふもとに広がる風光明媚な都市であり人口も56,521人(2015年国勢調査結果より)と比較的小規模な都市であることを考えると、夕鉄バスの沿線人口だけを考えても路線バス事業を成立させることが可能な市場性は十分に有していると考えられる。
夕鉄バスの課題
江別市役所で伺った夕鉄バスの課題については、大きく乗客減少と運転手不足の2点がある。
一般的なバス事業の形態としては、貸切バス事業と路線バス事業の2つの事業を屋台骨として運営をしているバス会社が多いだろう。
貸切バス事業の特徴は、バス会社と顧客との直接契約で価格が折り合えばバスの運行をするといったもので、バス会社の側としても必要最低限の車両と乗務員がいれば事業を行うことが出来、比較的収益ベースには乗せやすい事業だ。
しかしその一方で、路線バス事業の特徴は、365日年中無休でバスをフル稼働させなければならず、そのぶんの車両も乗務員も余計に雇わなければならないことからものすごくコストのかかる事業であるという。
こうしたことから、夕鉄バスの再生プランを考えようとした場合、路線バス事業のコストを少しでも多く回収できるように、まずは徹底した路線バスへの集客策を練ることが最優先となる。
3.課題への対応策
課題への対応策については、まずは、路線バスへの集客策について考察し、続いて運転手不足の対応について考察をする。
路線バスへの集客策
路線バスへの集客策の検討にあたっては、まず、夕鉄バスの路線を利用が想定される用途ごとに分類し、それぞれの利用用途が想定されるターゲット顧客に対する打ち手を検討する。
想定される路線バスの利用用途は、大きく3つに分けて考えることができ、①通勤や通学、買い物などの日常生活の足としての利用(日常客)、②南幌温泉など沿線の観光施設への移動手段としての観光客の利用(観光客)、③バス自体への乗車を目的とするバスマニアの利用(マニア客)。
集客策については、以上3つの想定される利用用途に基づいて具体的な集客プランを検討する。
運転手不足への対応策
運転手不足への対応策としても、まずは募集するべき運転手をどこから募集するのかというターゲットを考え、そうしたターゲットに対する募集策を検討することが妥当である。
ここでも、ターゲットを一般的な求職者とバスマニアの2つに分け、それぞれに対する募集策を検討する。
4.路線バスへの具体的な集客策
日常客
路線バスの日常客に対する集客の取り組みについては、既に北海道帯広市の十勝バスや埼玉県川越市のイーグルバスで十分な取り組み実績があることからこれらのバス会社の事例を参考に集客策を検討することが妥当と言える。また、十勝バスもイーグルバスも路線バスの集客改善に取り組もうとしているバス事業者との連携には積極的な姿勢をみせていることから、こうしたバス会社との連携を行い改善に取り組むことも十分に現実的な選択肢と言える。
十勝バスの場合は、地域住民がバスに乗らない理由を探るところから取り組みを開始し、その理由がバスに乗ることの『不安』が原因であることを突き止めている。そのためバスの乗り方を記載したバスマップを作成しバス路線沿線住民に対してバスに乗ることの『不安』解消するための周知活動を徹底したことが乗客の増加につながったという。
一方のイーグルバスは、工学的見地から課題可決のためのアプローチを図り、埼玉大学理工学部と連携して細かい運行情報や採算情報を可視化できる「バス事業改善システム」を開発。埼玉県日高市やときがわ町の赤字路線の黒字化に成功している。現在はこのシステムを活用した他地域のバス事業の改善にも積極的な姿勢を見せている。
夕鉄バスに置き換えて具体的な集客策を考えた場合、住民がバスに乗らない理由は十勝バス同様に『不安』からということが十分に考えられることから、バスの乗り方を記載したバスマップを作成し周知活動を徹底。さらに買い物や通院などの目的別に合わせた時刻表などを作成し周知活動を徹底。まずはこのような形で乗客の呼び戻しを図る。
そして最終的な仕上げとしては、イーグルバスと連携して「バス事業改善システム」を導入。運行情報や採算情報の可視化を図り、誰が見ても課題を解決できるような組織体制への仕上げを図る。
これらの取り組みについては後述する広報手段と合わせて情報発信すれば、夕鉄バスの知名度の向上とイメージアップを図ることが出来、さらなる集客効果を見込むこともできるだろう。
観光客
夕鉄バスの現状としては、路線バスへの観光客の需要はほとんど取り込めていないことから、新たな需要の掘り起こしが必要となる。
観光客需要の掘り起こしを考える手順としては、まずはバス路線沿線の自治体の観光資源となりそうな地域資源を徹底的にピックアップし、その上でクルマでは楽しめないバスに乗ることならではの魅力の提案を実施する。
具体的な企画例としてわかりやすいものを挙げると、夕鉄バスの基幹路線である新さっぽろ~南幌間には南幌温泉という日帰り温泉施設があることから、この南幌温泉の入浴券、ビール券、そして往復のバス券をセットにして「夕鉄バス南幌温泉ちょい飲みパック」として江別市民や札幌市民をターゲットとして販売する。クルマで温泉に行った場合は、運転をする人はお酒を飲むことが出来なくなるので、お酒と組み合わせたパック商品を作ることで路線バスならではの魅力を引き出すことが可能となる。
販売ルートについては、夕鉄バスの営業所のほか、札幌駅、新札幌駅のバスターミナル窓口やイオンショッピングモールなど人の多い場所での販売を重視すると今まで夕鉄バスを利用していなかった客層に対しての新たな需要の掘り起こしの効果が見込めるだろう。この他、後述する広報手段と合わせてコンビニ端末などでの販売も実施すれば、さらなるパック商品の売上増加を見込むことが出来るだろう。
マニア客
マニア客の傾向としては、古いバス車両を追い求めて日本中のバス路線めぐりをしているような方が多い傾向があることから、バスの車両自体が集客のための観光資源となりうる。
例えば、こちらの写真の日野ブルーリボンは、最も日野らしい大型路線バス使用の最後のモデルと言われている車両である。現在の日野自動車では、バスの生産は観光・高速バスモデルの生産のみに特化した体制となっており、路線バス仕様の車両については生産されていない。日野ブランドの路線バス車両については、完全にいすゞ自動車からのOEM調達に移行されていることから、こうした日野ブルーリボンという車両自体もマニア向けの集客コンテンツとして活用することが考えられる。
この他に、夕鉄バスで現在話題となっている車両としては東京都交通局から譲渡された中古車両が東京都交通局時代の塗装のままで運行されていることもマニア向けの集客コンテンツとして活用できる。
さらに、夕鉄バスが現在でも夕張鉄道株式会社という伝統の社名を守り続けている点も活用次第によってはマニア客に対する大きな訴求ポイントとなる。
以上の要素を総合的に検討して集客方法を考えると次のような企画例が考えられる。
- ①東京都交通局カラーのバスの野幌~夕張間の路線への導入
- ②夕張鉄道時代の懐かしの写真をあしらった記念乗車券やフリーきっぷの販売
①については、東京都交通局カラーのバスが北海道の大地を走るということ自体が話題性を呼び、かつ観光資源となることも十分に考えられることから、このバスをかつての夕張鉄道線が走っていた野幌~夕張間の路線に導入し、野幌駅を入り口とした夕張市への観光客の送客ツールとして活用し新たな話題性を呼び起こすことで、バスマニアのための聖地路線とすることを狙うものである。
②については、マニア客に対する広報効果を狙うとすれば、秋葉原の書泉グランデに代表されるような鉄道マニア・バスマニアなどの趣味人御用達のショップで記念乗車券の販売を行うことが望ましいだろう。さらにこの記念乗車券やフリーきっぷに夕張鉄道の廃線跡の遺構めぐりなどのマップを添付すれば、実際に夕鉄バスに乗ってこれらの遺構めぐりをするマニア客の誘致にもつながるであろう。
広報手段について
費用の掛からない効果的な広報手段は、マスメディアの報道の活用とインパクトのあるキャッチコピー作りの2点を実施することが効果的だ。
マスメディアの報道を活用する方法としては、記者クラブを活用する方法がもっとも有効な手段だ。北海道の札幌地区であれば札幌商工会議所、札幌市役所、北海道庁にそれぞれ記者クラブが置かれており、一定の様式を満たしたプレスリリースを作成できればこれらの記者クラブへプレスリリースの配布をすることが可能となる。配布したプレスリリースについては、興味を持ってくれたメディアがあれば後日、取材の依頼が来るという仕組みになっている。
取材の依頼を増やすために効果的な方法の一つとしてはインパクトのあるキャッチコピー作りも有効だ。
今回の新さっぽろ駅前から野幌バスターミナルへの夕鉄バスの乗車に当たってはリアルタイムでツイッターにも下記の投稿をしているのだが、夕鉄バスの車体に描かれた「YOU」という言葉を活用したキャッチコピーを練ることもよいかもしれない。
YOU、夕鉄バスに乗っちゃいなよ! pic.twitter.com/Rnr7wQy9RL
— 鉄道乗蔵 (@noruzo_tetsudo) 2017年12月2日
なんだこの魅力的なバスは(゚ω゚)
— Syndrome鉄😈二期考察大阪班 (@shindo_tetsu) 2017年12月3日
乗りてぇ…(゚ω゚)
— Syndrome鉄😈二期考察大阪班 (@shindo_tetsu) 2017年12月3日
ちなみに、こちらの投稿を通じては、車体に「YOU」と書かれたバスについては魅力的に感じる方もおられるようなので、こうした一般路線向けのバスについてもキャッチコピーなどの情報発信を工夫すれば夕鉄バスの集客につながるのかもしれないと感じた次第だ。
もし、江別市や夕張市のプロモーションと合わせて企画を考えるのであれば「YOUは江別に来ちゃいなYO!」又は「YOUは夕張に来ちゃいなYO!」といったキャッチコピーと合わせて夕鉄バスを使ったパッケージ商品やツアー企画などを実施することも新たな話題性を喚起し、実際の売上増に結び付く効果も期待できる。
この他にマニア客に特化した広報活動を充実させるとするのであれば、マニア向けサイトの『鉄道コム』『鉄道レスポンス』『乗りものニュース』などのサイト運営会社や鉄道やバス関連雑誌へのプレスリリースの配信も有効であろう。
各集客策についての実施難易度と効果の評価
上述の3つの集客策を実施難易度順に並べてみると次のようになる。
(易) マニア客 < 観光客 < 日常客 (難)
夕鉄バスに関しては、元々が夕張鉄道線を運行する鉄道会社であったことや東京都交通局の中古バスが運行されているなどの活用しだいによってはマニア向けにコンテンツ化できる素材が存在していることから、こうした素材を活用した情報発信の工夫次第では日本全国各地からマニア客の誘致が可能となることが考えられる。ターゲット市場は日本全国となることから費用対効果の面から考えてもまずはマニア向けのコンテンツに集中して集客策を図ることが最も効果的な手段であると考えられる。
続いて、観光客に関しては、お酒という利用者にとってバスを利用しなければならない要素を含めたパッケージ商品を販売しようというものであることから、比較的集客に結び付きやすい施策であると考えられる。ただし、ターゲット市場が江別市内や札幌市近郊に限られてしまうことから、潜在顧客の絶対数という観点からはマニア向けの集客策には劣ると考えられる。
日常客の集客に関しては、ターゲット市場がバス路線の沿線住民に限られるほか、地道なデータ収集とそれを活用したPDCAサイクルによる継続的な改善活動が必要となることから、もっとも手間と時間のかかる集客策であると考えられる。
5.運転手不足への具体的な対応策
一般的な求職者への募集
最近はバスの車体後部に乗務員募集の案内を出して常に乗務員の募集をかけているようなバス事業者も多く見ることが出来る。中には大型二種免許の取得費用を会社が負担するといったような求人広告を見かけることもあり、このような求職者にとってのメリットのある何らかの方法を考え出すことも有効であろう。
バスマニアへの募集
バスマニアから運転手の希望者を募集するといった方法も考えられる。バス業界ではないが千葉県のいすみ鉄道では鉄道マニア層でかつ生活とお金に余裕あるひとに限って鉄道運転士の募集をかけたところ一定数の募集申し込みがあったことから、こうしたマニア層から求人募集を募るという方法も十分に考えられるだろう。
6.鉄道の復権と夕張鉄道の未来へ向けて
鉄道業界の現状
夕張鉄道株式会社は現在はバス専業の会社となっているが、その社名が示すようにかつては野幌~夕張本町間の鉄道路線を有する鉄道会社であった。
現在の日本国内の鉄道業界事情については、まず観光列車の旺盛な需要から北海道を除く全国各地で豪華な食事や宿泊を楽しむことが出来る高級観光列車の登場が相次いでおり、例えばJR九州の肥薩線などそれまで地域住民の足として細々と営業していた路線が脚光を浴び、観光路線として活性化するような事例も増えている。
そして、トラックドライバー不足を背景とした物流輸送の鉄道貨物へのシフトによりJR貨物は慢性的な赤字体質を脱却し黒字転換を果たしている。また、第三セクター鉄道などの地方路線においてもヤマト運輸や佐川急便の荷物を旅客列車で輸送する客貨混載の取り組み例も増えており、国土交通省としてもこうした客貨混載による地方路線の活性化策を後押しするとの声明を出している。
こうした現状から、鉄道業界には追い風が吹いているとも見ることもでき、今までよく言われていたようなモータリゼーションの進展による鉄道輸送の衰退という図式は既に当てはまらない時代へと突入しつつあると言ってもよいだろう。
しかしながら、どこの事業者とは言わないが、鉄道事業者にこうした世の中の変化をとらえて自社の収益として取り込もうとする意思がなければ、いくら追い風が吹いていてもその事業者は衰退する一方となるのが現実だ。
夕張鉄道を成長企業に転じさせるための大胆提案!
こうした鉄道業界に対する世の中の変化を見据えて、鉄道乗蔵は、ここで夕張鉄道を今後の成長企業へと転じさせるための大胆な提案をしてみたい。
夕張鉄道の鉄道事業への再参入である。
鉄道事業への再参入といっても線路をいちから建設して新たに鉄道路線を開業させるといったような大掛かりなものではない。既存のJRの線路を借り受けて高級観光列車の運行のみに特化した運行専門の鉄道会社として鉄道事業に再参入しようというプランである。
具体的な運行計画としては、野幌~新夕張間に『夕張鉄道』のブランド名で高級スイーツ列車を1往復程度運行させる。高級スイーツ列車とするのは、起点となる江別市が酪農や小麦の栽培が盛んなことから市内に人気店のスイーツ店も多いこと、終点の夕張市も夕張メロンなどの高級スイーツ食材が豊富であることからスイーツをテーマとした列車を運行させることが地域プロモーションとの整合性が取れると考えたためだ。
このプランであれば、基本的な初期投資は車両の取得費のみに収めることができるほか、乗車料金も高価格帯の設定とすることができ、線路保有者のJR北海道とは高級スイーツ列車の売上高の一定比率の線路使用料を支払う契約としておけば、比較的収益ベースに乗せやすい事業となる。そのため、新株式の発行による資金調達も比較的実施をしやすいのではないかと思う。また、JR北海道の側にとっても活用されていない線路インフラを有効活用することができ、新たな収益源とすることもできる。
継続的な集客策としては、例えば大手旅行代理店や航空会社との提携を行い、バスツアーや旅行パック商品のルートにこのスイーツ列車のルートを組み込んでもらうことで一定数の安定的で確実な集客を狙う。
さらにこうした観光列車事業はお土産品などの物販事業との相性も良いことから、自社企画土産商品の卸事業や通信販売事業などと合わせてお土産品販売を実施すれば更なる売上の増加を見込むことが出来る。
次に夕張鉄道の鉄道事業への再参入に向けて現行の日本の法制度との関係を考察する。
現行の日本の法制度では、鉄道事業免許は第1種から第3種までの3種類が存在するが、このうちの第2種鉄道事業免許は他社の線路を借り受けて列車の運行を行うことが可能となる事業免許だ。この事業免許を取得することができれば野幌~新夕張間にJR北海道の線路を借り受けて高級スイーツ列車を運行させることが可能となる。
具体的な例としては、大手ツアーバス会社のウィラーバスが第2種鉄道事業免許を取得して京都府で鉄道事業に参入した例があることから、実現可能性については十分にあるモデルと言えるだろう。
鉄道事業の再参入に向けての資金調達については、新株式の発行により4億円を新たに調達。現行の夕張鉄道の資本金を9千万円から4億9千万円まで増資して、車両の取得費や鉄道事業免許の取得のために必要となる諸々の諸経費に充てる。なお、資本金が5億円以上となると会社法上の大会社となってしまい会計監査人の設置義務が生じてしまうことから、こうした事務負担を回避するために資本金を5億円未満となる4億9千万円に抑えておくことも増資額を決定するうえでのポイントだ。
2018年3月までの週末を中心とした日程で「長崎−佐世保」間(長崎コース)を運行している観光列車《或る列車》を徹底レポート。
— Casa BRUTUS (@CasaBRUTUS) 2017年11月25日
⇒ https://t.co/xvu11gSEaj pic.twitter.com/63hV8KEGAs
▲人気の高級スイーツ列車(JR九州或る列車)豪華スイーツ列車として現代に甦った、JR九州の「或る列車」。豪華絢爛な客車で極上のスイーツを堪能いただけるほか、日本三大美肌の湯「嬉野温泉」に宿泊できる特別な一泊二日の旅はいかがですか。 #九州 https://t.co/dxolwGnIuW pic.twitter.com/zAmeJBes3z
— ダイナースクラブ/Diners Club (@dinersjp) 2017年11月29日
7.再生プランを実行できる人材像
鉄道乗蔵の個人的な意見としては、ある程度の知識を持ち合わせた人間であれば、これくらいのプランは誰でも書くことができるものであると思っている。
しかし、本当に大切なことはこうしたプランを確実に実行して成果に結び付けることの出来る人材の存在だ。どんなに良いプランがあったとしてもそれを実行できる人間がいなければ単純にそのプランは絵に描いた餅に終わってしまう。
実際のプロジェクト運営については、実務経験と熱意の双方を兼ね備えた地場の若手経営者がプロジェクトの推進に当たるのが理想的だ。具体的な能力としては、地域の事情に精通しており大手企業等での新規事業プロジェクトの実務経験があればなお理想的である。そして、このような人材が実際に夕張鉄道の現場に入り込んで陣頭指揮を取りながら、書泉グランデやイーグルバスなどの外部機関との積極的な交渉に当たらせることができればプロジェクトを現実のものとして推進させることが可能となる。
次の機会には実際に夕張を訪問し、さらに夕鉄バスについての知見を深めてみたいと思う。
JR路線に乗り入れて、『夕張鉄道』という商品名で列車を運行するっておもしろいなあ。イーグルバスの「バス事業改善システム」も気になる。夕張〜野幌/新札幌/恵庭に通勤用の急行バスを走らせて、「通勤できる夕張」を実現し、底値の夕張の不動産を活用した開発事業に参入してほしいなー。 https://t.co/rcj1ldxYjJ
— 堀直人(編集者/江別市議会議員) (@rpg_hori) 2017年12月21日
鉄道乗蔵さんがブログで書いていたように、夕張鉄道が観光列車を走らせたら、夕張市を含め、観光での活性化に貢献しそうですね!#夕鉄#鉄道乗蔵 https://t.co/DQXwzPCCH1
— 国立機関区 (@bvekuni) 2018年2月20日
<関連記事>
⇒乗り物ヲタク系コンテンツを活用した町おこしは可能か!?北海道江別市役所へ意見交換に行く。
⇒運行本数は週わずか2便!夕張鉄道バスの免許維持路線に乗る!
この記事へのコメント
Nick
大変興味深く拝読させていただきました。
ただ、残念ながら私は主としてJR北海道バスを日々利用しており、夕鉄バスは待ち時間などの都合が良い時だけたま~に利用する程度です。
理由は単純で、夕鉄バスは交通系ICカードが利用できないから。
札幌市が発行しているSAPICAは約一割程度の還元がありお得なので、ついSAPICAの使用できるバス会社のバスに乗ってしまいます。
それに対し夕鉄バスでも約一割程度の還元率の回数券がありますが、残念ながら最小単位でも50円刻みで私が1回に支払う280円ですと小銭いらずとはならないのですね。
本文の分析でも日常客への対応は難しいと書かれておりましたが、確かに上記のような理由もあり難しいとは思います。
しかし、例えば中央バスやJR北海道バスに無い特徴として「酪農学園大学のキャンパス内をゆっくりと路線バスが走る(中々のどかで北海道らしい風景です)」等もあるので、上手くプロモーションできれば活性化も無理ではないのかなぁ、とも考えます。
特に何か提言できるわけでは無いのですが、日々の利用者として書き込ませていただきました。
鉄道乗蔵
ご丁寧な提言をいただきましてどうもありがとうございました!公共交通機関の活性化については、活用次第では十分に再生が可能との思いが強くありまして、草の根的ながらに私の知識が活用できればとの思いから、たまに専門的な見地を交えたブログ記事を書かせていただいております。たまに当ブログも覗いていただくことができればと考えておりますので、今後ともどうぞよろしくお願いいたします!