はじめに
2020年3月14日のダイヤ改正によりJR北海道の函館本線小樽~倶知安~長万部間に新型の電気式気動車であるH100形が登場した。
同区間はこれまで国鉄時代に導入されたキハ40形気動車とJR化後の1993年から導入が始まったキハ150形気動車により運行が行われていたが、これらの車両が一気に新型車両へと置き換えられることとなった。
H100形はディーゼルエンジンで発電した電気を用いてモーターを駆動して走行するといった、これまでの気動車とは異なる動力システムを採用していることから国鉄時代から踏襲してきた「キハ」といった車両形式名は採用されずH100形という全く新しい車両形式名が採用されたことが大きな特徴だ。
今回のブログではダイヤ改正の1週間後の2020年3月22日(日)に小樽~銀山間でH100形に乗車した際の乗車記をお届けしたい。
目次
- 1.H100形気動車とは
- 2.小樽駅でH100形気動車の入線を待つ
- 3.H100形気動車のインテリア・エクステリア
- 4.いざ小樽駅を発車する!
- 5.最初の列車交換!塩谷駅
- 6.小樽市西端の蘭島駅
- 7.ニッカウヰスキーの街・余市駅
- 8.フルーツの街・仁木駅
- 9.10分間の長時間停車!然別駅
- 10.今回の目的地!常備軟券のある銀山駅へ
1.H100形気動車とは
H100形気動車とは、2020年3月14日のダイヤ改正から函館本線小樽~倶知安~長万部間に15両が導入されたJR北海道の一般型気動車であり、「DECMO(デクモ)」の愛称を持つ。
この車両は、製造から30年を超え老朽化したキハ40形などの一般型気動車の置換えを目的に開発された車両であり、JR北海道の営業車両としては初めての電気式気動車(ディーゼル・エレクトリック車)である。
基本設計は、JR東日本が同時期に製造したGV-E400系気動車と共通で、酷寒地対策などの仕様変更を施している。製造もGV-E400系と同様川崎重工業が担当している。
従来のJR北海道の気動車形式は国鉄気動車の付番規則をおおむね踏襲していたが、本系列は既存車両と大きくシステムが異なることから、気動車を表す「キ」、普通車を表す「ハ」の用途記号は省略し、H5系新幹線電車で用いられた「北海道(Hokkaido)」のHを冠した形式名となったことも特徴だ。
今回は、このH100形気動車に小樽~銀山間で乗車した時の様子をお伝えしたい。なお、銀山駅を目的地としてのは、銀山駅では駅近くの木村商店にて簡易委託による常備軟券による乗車券の販売を行っており、この乗車券の購入についても目的としたためである。
2.小樽駅でH100形気動車の入線を待つ
2020年3月22日(日)、小樽駅へと到着したのは14時30分ころのことであった。小樽駅からは15時05発の倶知安行の普通列車に乗車し銀山駅へと向かう予定だ。なお、銀山駅の到着時刻は16時06分で小樽駅からの所要時間は1時間1分である。
小樽駅の側線には既に2両編成のH100形気動車の姿があり、この車両が定刻近くになると発車ホームである4番ホームへと入線してくるものと思われたので、入線までのひと時を小樽駅のプラットホーム上で待つことにする。
ダイヤ改正前までキハ40形やキハ150形が使用されていた際には同区間では基本的に扉は自動での開閉が行われていたが、ダイヤ改正後のH100形の導入後からはドアの開閉は押しボタン方式による半自動方式に完全移行となることから、小樽駅にはそうしたことを周知するポスターの掲示も行われていたことは印象的であった。
キハ40形気動車については車内がデッキ構造となっていいることから厳冬期に全ての駅でドアの開閉が行われても保温性には問題は無かったが、キハ150形気動車については車内がデッキなしの構造で、かつドアの半自動機能があるのにもかかわらず厳冬期にも全ての駅でドアの開閉が行われおり駅に停車するたびに氷点下の空気が車内に流れ込むといった事態がこれまで放置され続けていたことから、H100形気動車の導入によりこうした点が改善されたといことは良い点であると感じた。
▲小樽駅4番線に入線するH100形。小樽から余市・倶知安・ニセコ方面はICカードが使えない
倶知安行の普通列車は定刻の20分前である14時45分に小樽駅4番線へと入線。列車は倶知安側がH100-8、小樽側がH100-7の2両編成だ。ここで発車までしばらく時間があることから車両の観察をじっくりと行ってみることにした。
3.H100形気動車のインテリア・エクステリア
H100形のエクステリアデザインは基本的にはJR東日本のGV-E400系の両運転台車であるGV-E400形と同一であるが、LED前照灯がGV-E400形が2灯であるのに対してH100形が4灯となっていることが大きな相違点となっている。これは、は降雪時の視界確保を目的としたものであるそうだ。
またこの他の外見上の差異としては、乗降扉横のサボ受けがあることもH100形のみの特徴となっている。
両運転台車の連結面については、これまでのキハ40形やキハ150形の連結面と比較してやや幅が広くなっている印象であるが、こうしたことにもかかわらず最近普及してきた転落防止幌の装備がない点については、何かがあったときに少し怖い印象を受けた。
運賃表示器については液晶型で、運賃のほか次駅案内も行い、英語にも対応したものとなっていた。運賃箱については、これまでのキハ40形やキハ150形ではバスの運賃箱を流用したものとなっていたが、H100形からは他のJR各社で見られるような鉄道車両タイプのものとなっていた。
車内については、2000年代以降に登場したJR東日本のセミクロスシート車両と同様の座席となっており、レイアウトについてはGV-E400形と同一である。また、車内照明は全てLED照明となっている。なお、座席の乗り心地については快適であった。
洗面所については、かなり広いスペースが取られており、便座は電動車椅子対応のもの(洋式)となったことから、これまで和式便座であったキハ40形やキハ150形と比較して大きく進化を遂げた印象だ。
運転台については、ワンハンドルマスコンがこれまでのJR北海道の車両と比較してひと回り小さいJR東日本の標準的なタイプのものとなっていることなどから、全体的な印象としてはJR東日本の車両が北海道の小樽にいるという不思議な感覚となった。
4.いざ小樽駅を発車する!
小樽駅から銀山駅までの所要時間は1時間1分で運賃は840円だ。最新の指定券売機であるMV端末には近距離きっぷのメニューが実装されたようで、小樽駅に設置されているMV端末からは青色台紙のエド券サイズの近距離切符が購入することができた。
定刻の15時5分になり倶知安行の不通列車はいよいよ小樽駅を発車する。H100形については、先頭部分がガラス張りとなっていることから全面展望は比較的すぐれた構造となっているようだ。
発車の際の乗り心地は電車そのもので、これまでの気動車と比較して加速が鋭い印象を受けた。そして床下からは発電用のエンジン音と走行用モーターのインバーター音が同時に聞こえ、いわば気動車と電車の音が同時に聞こえながら加速をするといった不思議な乗り心地だ。
そして、列車は残雪の残る小樽の市街地を抜けて次の停車駅である塩谷駅へと向かう。
5.塩谷駅で最初の列車交換!
小樽駅から次の塩谷駅までの所要時間はおよそ10分。塩谷駅に到着してまもなくするとH100形2両編成の小樽行普通列車と離合する。
塩谷駅は小樽市内の駅ではあるがかなりの山の中に立地しており、周囲の人家はまばらである。2018年には当駅の裏手側に後志自動車道の小樽塩谷ICが開設されている。
小樽駅から塩谷駅、そして蘭島駅にかけては線路は勾配とカーブが続く山側のルートを走るが、この区間をH100形は60km/hほどの速度で軽快に進んでいく。
また車窓からは時折、日本海の海岸線や2018年に小樽JCT~余市IC間が開業した後志自動車道のコンクリート橋なども見ることができた。なお、後志自動車道については現在、余市IC~倶知安IC間の延伸工事が進められているようだ。
6.小樽市最西端の蘭島駅
塩谷駅を発車するとさらに10分ほどの所要時間で列車は次の蘭島駅へと到着する。ここが小樽市最西端の駅であり、蘭島駅を過ぎると列車は小樽市から余市郡余市町へと入る。
蘭島駅周辺は小規模な市街地が形成されており、駅周辺にはそれなりの人口を抱えている様子だ。また、2005年2月、映画「NANA」のロケに使用され、「北港駅(きたみなとえき)」として劇中に登場した。
蘭島駅も塩谷駅に続いて列車交換が可能な2面2線の駅であるが、この時は列車交換は無くそのまま発車となった。
蘭島駅からは線路は平坦区間となり、列車は余市駅へと向けて90km/hほどの高速で軽快に駆け抜けていく。ここではディーゼルエンジン音とモーター音の双方がうなりを上げ、鉄道車両の走行音としては全く新しい感覚だ。
7.ニッカウヰスキーの街・余市駅
蘭島駅からはおよそ8分で次の余市駅へと到着する。余市駅は2面3線の構内配線を持つ社員配置の有人駅でマルス端末を備えたみどりの窓口も有するこの地方の中心駅だ。時間帯によっては小樽駅からの折り返し列車も設定されている。
余市駅前にはニッカウヰスキー北海道工場余市蒸溜所が立地しており、2014年後期に放送されたNHK連続テレビ小説『マッサン』の舞台として一躍有名となった。
余市駅を発車すると列車は余市町から仁木町へと入り、車窓にはリンゴやサクランボなどの果樹園の景色が広がりはじめる。このあたりは、フルーツ農園が多く立地している地域で、近年はワイナリーなどの設立も相次いでいるという。
8.フルーツの街・仁木駅
余市駅からは6分ほどで仁木駅へと停車。仁木町の中心部に立地しており立派な駅舎を構えてはいるが、国鉄末期に無人化及び棒線化され、現在では1面1線の無人駅となっている。
仁木駅からも果樹園の広がる車窓風景はしばらく続き、やがて余市川にかかる鉄橋を渡る。かつて、この区間で臨時快速列車のSLニセコ号が運行されていた時代は、この鉄橋の向かい側に架けられた道路橋が蒸気機関車の撮影名所となっていたようで当時は多くの撮り鉄達が訪れていたようである。
9.10分間の長時間停車!然別駅
仁木駅からは5分ほどの所要時間で、稲穂峠に向けての山々が迫り始めてきたところで列車は然別駅へと到着。ここでは対向列車の待ち合わせのため10分間の長時間停車がある。
然別駅は稲穂峠の麓に立地している無人駅で周囲に人家もまばらではあるが列車の運行上は拠点となる駅のようで、札幌や小樽から然別までの折り返し列車の設定があるほか、駅構内には保線用のモーターカーの車庫も立地している。
せっかくなので、然別駅ではこの長時間停車を利用してホームへと降りてみることにした。この列車には私の他にもう1名の同業者の方が乗り合わせていたようで、こちらの方も長時間停車中にはホームへと降り、駅周辺の写真撮影などを楽しまれている様子であった。
発車時間が迫り、倶知安方面からLEDによる4灯の灯火が見え始め、100形2両編成の小樽行普通列車が到着。対向列車の到着とほぼ同時に出発信号機の現示が青色に変わり、慌ただしく車内へと戻ると倶知安行の普通列車はすぐに然別駅を発車した。
然別駅からは20.8‰の勾配区間のある稲穂峠の区間へと入る。キハ40系時代は稲穂峠の勾配は40km/h~50km/hの低速であえぐように坂道を登っていたことが印象に残っているが、対してH100形は軽快なエンジン音とモーター音を同時に響かせながら50km/h~60km/hの速度でスムーズに峠道を登って行った。
10.今回の目的地!常備軟券のある銀山駅へ
然別駅からは稲穂峠の勾配区間を登り続けること12分。稲穂峠をほぼ登りきったところで本日の目的地の銀山駅へと到着した。
銀山駅も駅周辺には人家がまばらな無人駅であるが、実はこの駅は簡易委託駅で駅前の木村商店さんで常備軟券による乗車券の販売が行われているということでわざわざこの駅へと降り立ったのだ。
銀山駅ではこれまで小樽駅から乗車してきた2両編成のH100形を見送ると、駅前の坂を少し下り木村商店さんへ。そして、ピンク色の小樽駅までの常備軟券の乗車券を購入し、再び帰路へとついたのであった。
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